皮膚切開の前提
開頭・穿頭手術の最初に行うことは皮膚切開となります。
後の記事でも度々触れますが、皮切のデザインは手術の最重要局面を踏まえて逆算的に開頭を決め、その開頭に合わせて皮切デザイン、頭部のポジションを決めるとなりますのである意味手術プランにおいては最後の方に決まる要素となります。
皮膚切開の種類
直線ベースの線状切開
開頭野の中心から線状に一本伸ばすシンプルな切開。
利点は切開の長さが最短になることが多く展開、閉鎖が短時間となる点。閉鎖の際にズレにくい点です。
欠点としては部位にもよりますが直交する方向には5割から6割程度までしか剥離できないこと。それにより結果的に皮切範囲が伸びてしまうこと、感染予防のために開頭範囲と皮切範囲をずらすことはほぼできないことなどです。
通常の穿頭術、少開頭などでは頻用されます。
実際のデザインではSTAなど血管の走行をなるべく横切らない方向、開頭の長軸に沿うように切開すると更に剥離範囲は稼げます。
剥離後の展開にはゲルピー型の開創器や頭皮フックを用いますが、フックの方がその後局所を一時的に開いたりできるので便利です。
ただしゴムフックでは引っ張る先が必要なことと片方だけに引っ張ると頭部ごと引っ張られていくことに注意です。
弧状切開
前頭側頭開頭や両側前頭開頭、外側後頭下開頭など多くのメジャーな開頭で採用される切開です。
利点としては皮切線をhair line内に隠すことができる、デザインによるが皮切線の両端を十分使った剥離範囲が得られる。皮切線と違うラインで下の層の切開や剥離ができる(前頭側頭開頭の顔面神経を避けるfascia layerを使った剥離)、開頭と皮切をずらすことが容易な点などです。
欠点としては同じ起始・終点ならばカーブした分切開長が長くなり、切開・縫合に時間がかかる。閉鎖の際にズレやすい、延長した際に広がる開頭範囲が限定されるなどです。
頭皮フックなどで皮弁を翻転することが多いですがフックでの牽引が強すぎて皮弁や眼球の圧迫が無いように開頭後に必ずチェックしましょう。
T字型など
直線+直線や弧状+直線などの形になることが多く、メインの皮切線を拡げる形で行われます。
利点としては柔軟性に富んだデザインでできること。再手術などで開頭追加する場合などでは頻用されます。
欠点としては皮切合流点周囲の血流が乏しくなり、創傷治癒遅延や感染のリスクがあること、その部位が縫合しにくいことなどが挙げられます。
以上を踏まえて
- 必要な開頭範囲
- hair line
- 血流の方向
- 延長した際の有効性
などを考えてデザインしましょう。
脳神経外科手術の基本手技
定番の教科書ですが皮切、縫合についての基礎が書いてあります。
絶版になっているのかネットでは中古で価格が高騰しています。
医局に転がっているのを読みましょう。
NS NOWシリーズの整容脳神経外科
切開時の角度などかなりのこだわりが書かれています。
総論部分だけでも一読の価値はあります。
脳神経外科専門医をめざすための経験すべき手術44
通称「44」。これも総論部分にとても大事な概念が書かれています。時々読み返して「そうそう」と思うでしょう。
コメント
[…] 動画では直線状の皮切を勧めていますが開頭を伸ばす予定が無いのであればヘアラインによってはカーブさせても問題ありません。前後に皮弁を牽引した時に予定している開頭範囲が開けば良いのですが、多くの場合はヘアラインや顔面神経の都合上開頭の後方よりの皮膚切開となるので前方に牽引した時にFrontozygomatic suture近くまで露出できるか、にかかっています。皮膚切開に関しては過去の記事も参考に。 […]