前交通動脈瘤のクリッピング(Pterional approach)

前交通動脈瘤に対する治療

前交通動脈瘤への治療は主にコイル塞栓術、クリッピング術などが行われる。
一昔前は前交通動脈瘤はコイル塞栓術なんて遠位すぎて危ない、といわれた時期がありましたが中間カテーテルの進歩などでよくあるコイル塞栓術の治療部位の一つとなりました。
それでも破裂動脈瘤の場合は経験上前交通動脈近傍での血栓形成の率が高いので、なるべくシンプルな治療にすべきと思っています。

さて、開頭クリッピング術の場合いわゆるInterhemispheric approachとPterional approachのいずれかになる場合が多く、さらにPterional approachの場合に左右どちらからアプローチするのかの議論もあります。

どのような瘤に対してどのアプローチを選ぶのかはまた別記事で触れるとして、今回はPterional approachでのクリッピングのやり方の一例を提示します。

まず下記の8倍速動画を御覧ください。

体位、頭部固定

仰臥位で頭部を対側に45度程度ふり、前頭葉を手前に引くときに重力を助けにできるようにある程度のvertex downをかけます。
背板をあげ静脈還流を阻害しないようにします。

皮切から開頭まで

通常の前頭側頭開頭もしくはmini pterional approach、更に眉の上縁を切開する上眼窩アプローチといった選択肢があり、それに従った皮切、開頭を行います。

個人的には最近はほとんど未破裂はmini pterional approachで済んでいますが最終的に前頭葉を手前に脳ベラで引くことが必要であり、ワーキングスペース・視野の確保のため前頭蓋底側を大きめに開頭します。逆に中頭蓋窩側は少し側頭葉が確認でき、見上げるときの視野の妨げにならなければ大丈夫です。

Bone work

硬膜を翻転した際に視界を遮られなくなるのsphenoid ridgeはMeningo-orbital bandが確認できるレベルまでは削減したほうが良いです。

多くの場合前頭蓋底に骨隆起があるのでこちらも平らにすべくドリリングします。

硬膜切開

硬膜は弧状に切開しますが、前頭葉側をなるべく広く開くようにします。
中大脳動脈瘤の場合は最低限シルビウス周囲だけ開ければ良いので細めの切開でもいいですが、今回は広くとったほうが良いです。

シルビウス裂剥離

動脈瘤の突出方向によってはいきなり前頭葉下面からアプローチしていくと破裂する可能性があることと、最終的に前頭葉を手前に引く場合に可動性を持たせるためにシルビウス裂の剥離が必要となります。

今回のように脳の萎縮がある程度あり透見しやすい状況ならばdistal sylvian approachで遠位側から深い層まで剥離すると安全に内頚動脈を確保することができます。

前頭葉下アプローチへシフト

ある程度シルビウス裂側がフリーとなり前頭葉が動かせる状態となれば剥離を近位部側にすすめていくことで内頚動脈先端部、そして同側視神経を確認することができます。

視神経周囲を剥離しながら内頚動脈先端部を辿ると同側の前大脳動脈のA1が確認できます。

この過程で徐々に髄液は抜けていき更に脳はslackとなり可動性が増します。可動性が十分となれば脳ベラをそっと前頭葉下面に差し入れ少し手前に引いて展開します。

前大脳動脈に沿って下面を剥離していくと前交通動脈を経て対側の前大脳動脈A1へ到達します。

ここではまだ対側の前頭葉下面を剥離しないようにします。(理由は後述)

Interhemispheric fissureの剥離

脳ベラの位置と方向をを調整して同側の前頭葉下面をめくりあげるようにすると突っ張ったinterhemispheric fissureのくも膜が確認できるので下面から切り上げていきます。

このとき上述のように対側の前頭葉下面の剥離をせずに残しておくと前頭葉を引いたときにカウンタートラクションとして働いてくれます。

十分高位まで剥離を進めたら次に対側の前頭葉下面、対側視神経周囲などを剥離していきます。

動脈瘤周囲へ

上記までしっかり剥離していれば前頭葉を脳ベラで手前に引いていくと動脈瘤のネックが確認できます。

そこから周囲を剥離し徐々に脳ベラを牽引していくと十分な術野が確保できます。

Pterional approachで前交通動脈瘤へアプローチする場合は前頭葉の可動性をもたせることが大事。

十分剥離してから脳ベラで牽引すること

中大脳動脈瘤のクリッピングの良書

前交通動脈瘤バージョンを切望します。

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