ICPセンサー留置術の落とし穴

ICPセンサー留置する状況

頭蓋内に圧センサーを挿入して頭蓋内圧をモニタリングすることは頭蓋内圧が亢進する病態下では非常に有用です。

おそらく最も使用頻度が高いのは重症頭部外傷時かと思われます。

センサー挿入位置としては硬膜下、実質内、脳室内ですが、正確性や感染リスクの観点からは実質内が第一選択で良いと思います。

日本で使われているセンサーとしてはCodman社のものとCamino社のものがあり、それぞれ挿入方法も、センサーの特性も違います。

Codman

Codman社の通常モデル

Camino

Camino社のボルト挿入モデル

Codman社のセンサー留置は定型的には側脳室前角穿刺を行う要領で穿頭を行って硬膜、くも膜切開し、実質内に差し入れれば良いのですが、、、

よくあるのシチュエーション

外傷時に開頭外減圧などでなくICPセンサーを挿入して管理しよう、という施設は救急救命科がしっかりしている印象です(経験上)。
外傷の管理がしっかりしていないとICPの情報は宝の持ち腐れになってしまうからです。

となると、救命初療室や、処置室でICPセンサーを1人か2人の脳外科医でやるシチュエーションが多くなります。用意されている器具も最低限である事が多いです。

しかも周りの救急科ドクターは他の部位の止血処置などをしている状況もしばしばあります。

なるべく早くICPセンサーを留置して頭蓋内の事を済ませて他の治療プロセス、管理にうつりたい状況です。

更に他臓器の出血などで凝固止血能が低下していることも良くあります。

穿頭術だからといって舐めてはいけない

上記の様な悪条件だらけの中での穿頭術、実は落とし穴だらけです。

  • 皮切の位置がズレる
  • バイポーラーのコード断線
  • 手回しドリルで突き抜けて実質までドリル
  • 正中側に寄りすぎてSSS損傷から大出血
  • センサー留置の深さが浅すぎ、深すぎ
  • 硬膜切開時に表層の静脈まで切開される
  • 圧センサーのゼロ合わせ忘れ
  • 留置後センサーコードが引っ張られて抜ける
  • などなど

落ち着いている状況なら起こり得ないような信じられない事がおこりうるのが外傷の緊急手術です。
現状の状況下でトラブル時にどこまでの対処ができるのかを意識しながら進めていきましょう。

まず上記のような状況にならないように。

  • 呼べる脳外科医は呼んでおく。
  • 皮切デザインは正中、冠状縫合をしっかり計測してから。
  • 計測がしっかりしていると思ってもやや外側気味に穿頭するつもりで
  • 皮膚を切開する前に止血機能(フィブリノーゲン・PT・APTTなど)や器具の確認。
  • 手回しドリルがなめらかに回るか確認。
  • ドリル中、ある程度進んだ場合慎重に内板を削る。
  • 硬膜切開も中央から切り開き、静脈性出血があるようならそれ以上は切り進めない。
  • センサー分だけcorticotomyできればよいのできれいに穿頭領域を開けることにこだわらない。
  • 圧センサーを術野に出してすぐに0点合わせをする。
  • 事前にCTで脳表からセンサー挿入の深さの安全域を計測しておく。
  • 穿頭縁から目標の深さまででセンサーを曲げておく(Codmanのセンサーは曲げに強い、Caminoのセンサーは曲げに弱いので曲げるのは禁)。
  • 実質に挿入後はICP値をこまめにチェックして抜けたりしていないかチェック。
  • 閉創後コードの固定をしっかりする。

きっとこれ以外にもたくさん落とし穴があると思いますが状況に応じて臨機応変に、最悪ダメージコントロールで後に開頭に行くことも想定し深追いしすぎないことが大事だと最近思います。

ICPセンサーに限らず重症頭部外傷の手術が必要なシチュエーションそのものが落とし穴だらけの地雷原であることを認識しましょう。

外傷に携わる人必携。
専門医試験にも必須。

外傷手術単独の教科書は少なめで、基本手術の項目の一つで扱われていることが多い。
これは外傷専門の教科書。

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