脳実質内での止血について

血腫除去や脳実質内腫瘍の摘出術では脳血管外科でのくも膜下腔、や軟膜下腔の出血と違い実質内からの出血に対して止血がほぼ必須です。

今回実質内の出血に対する止血に対して個人的に意識している事を記載していきます。

どういう血管から出血しているのか

止血を考えた際にかならず考えるべきは出血源となっているのはどういうものなのか、という点です。

これが大事なことは静脈洞などからの静脈性出血と動脈性出血の止血方法が変わってくることからもイメージできるかと思います。

図解すると以下の通り

このように出血している。動脈性では血管壁の弾性板が発達しており凝固することで収縮し止血される。

逆にある程度以上径のある静脈の場合弾性板は発達しておらず凝固することで全体が縮むより孔が拡大して余計出血するため孔を塞ぐようにパッチを当てたり縫合したりする必要がある。

脳実質内での静脈性出血

実質内での出血は多くが静脈性で、一部動脈性です。

静脈性出血の多くは血管径が小さいためベン・シーツやサージセルなどの圧迫止血やまわりの出血ごと凝固するといった割合ざっくりとした止血で止まることが多いです。

しかし如何せん出血ヶ所が多いため一つ一つ止血するのは時間を浪費してしまいます。
そのため後述の動脈性出血でない部位に関してはベン・シーツなどで圧迫しつつ他の部位の止血を行なうことで自分の血液による凝固を待つという「圧迫と時間での解決」を多用すると良いです。

脳実質内の動脈性出血

静脈性出血より出血ヶ所は少ないですが勢いが強く自然にはなかなか止血されないものが動脈性出血です。

しかし、脳実質内では出血源がいつも見えるわけではなく、むしろ脳実質が覆いかぶさっているために出血源がそもそも動脈性かどうか分かりにくいこともままあります。

そのために勢いがある程度ある出血はまず動脈性出血が隠れいていることを想定します。

一番出血の勢いが強い部位の実質を少しずつ吸引管で剥いでいくと奥にある程度の径を持った動脈が見つかる事が多いです。

出血源が直視出来る場合は血管形状、拍動性出血などで簡単に見分けることができます。

ここでバイポーラによって凝固させることが出来るようになります。
その際に要注意点としては「血管を直接凝固する」ことです。

どういうことかというと、バイポーラと血管壁の間に水分以外のものを挟み込まないようにするということです。

慌てて挟んで凝固すると脳実質や周囲の血液がバイポーラの先と血管の間に挟み込まれ、これによってコゲができやすくなります。

コゲができることで本体の血管はあまり凝固されず、バイポーラを止血点から離す際にくっついてしまって奥で動脈を損傷し、更に出血点が深部へ行ってしまうという悪循環が生じ得ます。

それを防ぐためにしっかり止血するポイントを意識して出血や周囲実質を吸引管でコントロールして凝固しましょう。

また、バイポーラの先端の幅はちょうど血管が収まるぐらい広げておいたほうがくっつきにくいです。

出力にもよりますが凝固した手応えがあって動脈が縮まればその箇所での止血は十分。太めの欠陥の場合は動脈に平行にずらして何箇所か凝固を追加すると安心です。

局所止血剤は?

出血傾向にある症例などでなければ上記の動脈性出血が止血できていれば術野内にサージセルなどをおくことで術後に再手術は必要となるような出血はまず起きません。

ただし出血傾向がある症例などなるべく完全に近い止血を行いたい場合はフローシールなど局所止血剤を用いるのもアリだと思います。

気道内圧を上げるインフレーションテストを行って止血されていることを術中に確認することも忘れず。

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