脳外科の腫瘍性病変の中でも比較的遭遇頻度が高いものとして髄膜腫が挙げられます。
症候性のものは治療対象になりますが無症候性のものに対しては何を適応基準にするのか。
高齢化社会に伴って適応の考え方も色々なケースを想定する必要があると思われます。
髄膜腫と高齢化社会
髄膜腫は脳外科の扱う腫瘍で頻度が高いものの一つです。
基本良性腫瘍であり、増大速度もゆっくりであるため中年期以降で発見されることが多い(特に中年期以降の女性)。
よく転倒時頭部打撲で頭部CTを撮影し、偶然に指摘される、というのもあるあるの病歴です。
無症候性のものは経過観察に周り年1回フォロー、というのもあるあるです。
一般的な治療適応
一般的な治療適応に対する考え方は
- 症候性(てんかん発作含む)
- 大きさ(目安3cm)
- 増大速度が早い
あたりが基準となるかと思います。
髄膜腫全般については澤村先生のページを参照してください。
何が問題なのか
手術対象年齢
昨今、特に合併症のない70歳台の開頭手術は抵抗なく行われていると思います。ところが80歳台、90歳台になると手術・全身麻酔のリスクは増えてくるため躊躇されていくようになります。もちろん患者側の身体的・心理的なハードルも高くなります。
少しずつ増大傾向にある髄膜腫の場合教科書どおりの3cmを待つとその頃に80歳、90歳となってくるケースがあります。
経験した実例としては症候性てんかんで運ばれたもともとADL自立していた90歳の患者に5cmの円蓋部髄膜腫があったというものがあります。このケースは5年前までは既に指摘されている3cm弱の髄膜腫に対して定期画像フォローをされていましたが増大が遅いということで通院終了となっていました。
さて、この患者に90歳超えてから手術するか?という問題が出てきます。せめて80歳半ばならなんの問題もなく摘出ができていたかもしれません。
この実例から考えてみると
「比較的高齢の髄膜腫を経過観察を続ける=生涯その人の摘出術をしなくていいい方に賭けている」
ということです。
年1回のフォローではついつい軽く見られがちですが腫瘍サイズが少し増大しているなどある場合は最初に経過観察を選んだときと比べて上記のオッズが変化していることを考えて再度どうするかをしっかり考えた方が良いと思われます。
特に少しずつ大きくなっている場合はズルズルと惰性で経過観察を続けていないか要注意です。
腫瘍の部位、周辺の構造物
上記の教科書的な3cmは髄膜腫の発生部位の多様性を考慮していません。
当然ながら頭蓋底の髄膜腫は神経や血管が密集しているため小型でも症候性になりやすい。
症候性になる場合は話は単純ですが、無症候性ながら重要構造物が近くにある髄膜腫は要注意です。
手術の際に一番のリスクになるのが神経や血管が腫瘍に巻き込まれており、摘出の際に損傷したり閉塞などにより脳梗塞を生じることだからです。更に術野の浅い、深いでも操作性が変わってきます。
頭蓋底髄膜腫が難しいのは脳外科医の多くの共通認識かと思いますがそうでなくても例えば大脳鎌髄膜腫などでも要注意です。
教科書などでは傍矢状静脈洞部と一緒にされがちですが大脳鎌髄膜腫は実は底部が前大脳動脈を巻き込みやすくしかも手前の正常脳によって視野が制限され死角が多くなってしまうため3cmでも慣れていないと手術リスクは高くなってしまいます。
こういった難しい部位の手術は
- 比較的高齢なので一生治療しない方に賭ける
- そこまで高齢でないので大きくなりそうなら早めに治療しておく
という考え方もありかと思われます。
無症候性髄膜腫は症候性の有無、サイズ、増大スピードの三要素が治療適応基準の基本
3cm近い高齢者は年齢も考慮に入れる
周囲の構造物が巻き込まれる前に手術する、という選択肢も考える
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