バイパス時の縫合糸の扱い方~ピンセット編~

STA-MCAバイパスなどで使用される糸は細く、10-0 ナイロンや11-0 ナイロンが使われることが多い。
初学者は針糸の扱いに戸惑うことで時間をロスすることが多く、実際の吻合作業より時間が取られることも多い。
今回はピンセットの使用にスポットを当ててみます。

マイクロ用のピンセット(ジュエラーピンセット)

いわゆるマイクロで使う汎用性の高いピンセット。
画像の例は村中医療器の「BONIMED ジュエラーピンセット 0番
STA-MCAバイパスぐらいの長さなら短すぎず長すぎず。お値段も7000円(2021年現在) と他の器具に比べると比較的安価です。

番手が上がるほど先端が細くなっていきます。
長さが長いものや先端が曲がっているもの、チタン製のものなどあります。
初心者はこれでまず練習器具することになりますし、実際の手術でもこれで十分といえば十分。

利点~お馴染みで汎用性が高い~

  • 比較的安価で先端がダメになったら買い替えやすい(といっても個人的には10年買い替えてないですが)。
  • 両手で同じものを使用することができるので左右の手の操作感に差がなくできる。
  • 左右で番手を変えて使い分けることもできる。
  • 開閉が箸と似ているので日本人にとって非常に馴染みのある操作感で操作できる。
  • 他のもの(例えば血管やゼルフォーム、コットンシーツなど)を持ち替えずに操作できる。
  • まずどこの施設にでもある。

こんなに便利そうに思えるものですが欠点もあります

欠点~針が滑る~

  • 把持力が弱い
    これは針を持つとき、血管壁に刺すときに問題となってきます。
    下の図は上から見た図ですが斜めに持つと血管壁に刺すとズレて逃げていきます(特にSTAなど壁が分厚いもの)。
    順針、逆針ともに垂直に持つのが無難です。
  • 横から見た図
    横から見た図を考えて血管壁に刺すことを考えます。
    教科書でよく見るような表皮縫合などのイメージはこんな感じ。
  • これは持針器での縫い方(<-おすすめしません)
    針の後ろ2/3から3/4ぐらいのところ(緑)を持って針の湾曲に沿うように血管壁(赤)に垂直に貫くように刺す。手首のスナップを効かせて回すように針を押していく。
  • ところが、、、
    実際やってみると血管壁に負けてやっぱりズレてしまうケースが多い。
    これは針へ伝える力がピンセットからの摩擦力なのか垂直抗力なのかの問題なのです。
  • もの凄く極端に図示すると上のようになります。
    緑がいわゆる回しながら針を貫く方向での力の向きで、純粋に針に沿う方向ならばピンセットで掴んだ静止摩擦力でズレないよう抗いながら壁を貫きます。
    一方ピンクは針の中頃で持って水平に刺した場合です。大部分がピンセットにかかる垂直抗力がそのまま壁を貫く方向にかかっているのがわかります。
  • 静止摩擦係数は1未満なのでピンクのほうが少ない把持力で壁を貫くことができることがわかります。
  • 名人がSTAを吻合しているビデオなどを見ると意外と真っ直ぐ勢いよく貫いていることが多いのはそのためですがあまり教科書などで言及されていません。

針を垂直に持つ
真ん中に近いところを持つ
壁の厚さが厚いほど真っ直ぐ方向に突き刺す

欠点~糸がつかめない~

  • ようやくいい感じにSTAとMCAの壁に針を通したとする。
    その後持ち変えることなく糸結びにいけるのはピンセットのメリット。しかし、、、
  • 糸がつかめない、つかめたと思って動かすとすり抜ける。
    こんな経験よくあるのがピンセットの辛いところ。ただし持針器でも左手はピンセットのことが多いので糸つかめない問題は深刻です。
  • その原因は把持できるポイントが狭いことに尽きます。
    持針器と違いピンセットは先端がたわむことで先端同士が接触している仕組みのため基本先端付近の狭い範囲でしかものをつまめません。
  • まず適切な拡大率で見ましょう。
    針を通したあとは弱拡大で操作をしますが見えにくいもの(特に奥行き)を掴むのは困難です。
  • 糸の長さは適正か。
    特に針がついていない方は先端が浮いて手前に伸びて来る場合はつかみにくいです。中途半端な長さのときに手前浮きがひどくなりがちなので針を抜き終わったあと適度な長さまで抜いて調節してつかみやすい長さにしましょう。
  • 糸を掴みに行く方向
    糸に対して垂直につかみにいきたいところですが糸に平行に掴むとどこかで引っかかる可能性が上がります。

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