バイパス術全体マップ
ここでは最も頻度の高いSTA-MCAバイパス術の全体像と練習でのカバー範囲を考えてみましょう。
練習でカバーされる項目は*印を付けています。
皮切-STA 頭頂枝のharvesting
Single anastomosisの場合は頭頂枝のみ、double anastomosisの場合は頭頂枝を先に剥離し、皮弁裏から前頭枝を剥離する場合が多いと思います。
実はここのharvestingも色々なやり方が存在し、剥離で得たグラフトの状態もバイパス開存率を左右すると思われます。
このプロセスは卓上などでの練習は難しいですが、鶏の手羽先から血管を剥離する方式の場合少し似ているかもしれません。
皮弁翻転-STA 前頭枝のharvesting
double anastomosisの場合は皮切を前方に伸ばし皮弁を翻転して帽状腱膜の裏側から剥離することが多いと思います。
ここも卓上練習は難しいです。
側頭筋切開-開頭
吻合先候補をカバーするように開頭を行います。
開頭の際、ドリルを使うときにグラフトを巻き込まないように要注意。
電気メスなどでグラフトが凝固されないようにも注意が必要。
硬膜切開
十字切開や弧状切開などお好みの切開線で硬膜を切開しますが、理屈的にはグラフトが硬膜外から硬膜内へ通る通り道を考えてデザインする必要があります。
レシピエントの準備
意外と重要で気を使うのが繋がれる側の血管の準備です。
レシピエントとして良い条件は
- ある程度の径が確保されており
- 表面付近を真っ直ぐ走行していて
- 枝が出てない距離が長く
- 事前のperfusion画像でペナンブラとなっている可能性が高い領域近くで
- 開頭縁から距離があり邪魔されにくい
などなどです。
しっかりした分枝はクリップで術中に遮断しておく技もありますが、細い枝1-2本なら凝固切断してしまっても問題になることはほとんどありません。
それよりも吻合の条件を良くするほうが重要と考えます。
*ドナーの準備
準備しておいたドナーの先をトリミングして断面の形を決めます。
レシピエントと照らし合わせて必要十分な長さの断面にしましょう。(断面形成はいくつか流儀あり)
ピオクタニン色素などで着色する、両端にstay sutureをかけておく、ということもこの時点で行います。
ドナーに付着しているビロビロした組織の剥離は手羽先血管なら練習できますが、チューブの場合は断端形成以降を練習することになります。
*レシピエントの遮断、前壁の切開
先程のドナーを横において吻合予定の長さを色素などでマークします。
そしてレシピエントをクリップで遮断!ここから遮断時間カウントです。
最も取り返しのつかないのがレシピエントの前壁切開です。ここもいくつか流儀があります。
*stay sutureの縫合
なぜstay sutureを別項目にしているか。初心者にとって難しいからです。
実際の手術でも他の縫合部に比べると神経と時間を消耗するのがstay sutureです。
また、この段階であればドナーとレシピエントの長さが不均衡だった場合に取り返しがつきます。
*片面の縫合
片面の縫合後は血管の動きに制限が出てくるので先に縫合しにくい面から縫合するのが原則です。
stay sutureの隣が難しいのでそこから縫合を始めるのが良いでしょう。(これもいくつか流儀あり)
ひと針ひと針糸結び行う方式、糸だけ残して最後に結ぶ方式、2本の針糸を使って交互にすすめていく方式など色々な流儀があります。
練習の場合は針糸をケチりたいのでひと針ずつ結ぶことをおすすめします。(潤沢に針糸がある環境の場合は除く)
*もう片面の縫合
ドナーを裏返し、裏縫いなど無いことを確認し、反対同様に縫合します。
最初のデザインが良ければ進めるごとに縫合が楽になります。
遮断解除、リーク対策
まずレシピエント側の遮断を解除し、血流再開していることを確認します。
そしてドナーの遮断解除を行いバイパスが開存していることをドップラーやICGなどを使用して確認します。
このときに縫合の隙間などから血液のリークがある程度以上の勢いである場合は縫合の追加が必要となります。
リーク量に応じて再遮断が必要な場合と不要な場合があります。
練習の場合はドナー側チューブを吻合部付近で切開し、裏縫いの有無や縫合の間隔など内腔からの観察をし自己採点しましょう。
止血、硬膜閉鎖、閉頭
表面だけの操作のことが多いので硬膜内は吻合部以外の止血はあまり必要ないことが多いです。
硬膜はwater tightといってもグラフトの通過口が必要で、通過口がギリギリだとそこでグラフトの狭窄を起こす危険性があるので余裕をもたせ、側頭筋等の組織でゆるくカバーしたり組織接着剤でのシールなどを行います。
骨弁もグラフトを狭窄させないよう骨窓を開け注意して固定しましょう
閉創
側頭筋膜、帽状腱膜、表皮と順層に閉鎖します。
ここでもグラフトには要注意です。
最後までドップラーなどでグラフト血流を確認しながら閉創しましょう。
まとめ
お疲れさまでした。
各ステップに分けて考えるとバイパスの手術でも卓上で練習できるのは実は一部であることがわかります。
練習でできるところはスムーズにできるところまで事前に練習しておく、という姿勢は大事です。
概して若いレジデントの方が目も手先も良いので正しい手順で練習すれば初期の上達はかなりのスピードになります。
それでは練習の各ステップについて別記事で解説していきます。
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