手回しドリルのコツ

脳外科の手術のうち初学者が術者として行う手術は慢性硬膜下血腫などが多いです。

通常慢性硬膜下血腫の手術ではバーホールを一つ穿ち、その中で手術を行うことになります(もちろん違う術式の施設もありますが)。

最近では慢性硬膜下血腫でも安全性の面などで電動ドリルなどのパーフォレーター先端でバーホールを穿つ施設も増えていますが、個人的には手回しドリルでの穿頭を身につけるには慢性硬膜下血腫が最も合理的だと思います。

そもそも手回しドリルは必要なのか?

現在の日本の医療環境であれば究極的には手回しドリルは必要不可欠な器具ではありません。

バーホールは電動や空気圧ドリルのパーフォレーター先端を用いて穿つか、スチールドリルなどでフリーハンドでバーホールを作成すれば良い、ということになります。

ただし、電動や空気圧ドリルの扱いや、フリーハンドで骨削除するのも危険性があり、知識と経験がある程度必要となります。

また、バーホールはパーフォレーターで穿つとしても時に途中で空回りして硬膜上まで到達できないこともあります。その場合、手回しドリルを用いて同じバーホールを穿つことで簡便にリカバリーすることができます。

手回しドリルは準備が簡単かつリユース可能というメリットもあり、コストパフォーマンス的なことを考えるとそうそう絶滅しないような気がします。

となると手回しドリルの扱いは身につけておいたほうが良い、ということになります。

具体的なコツ

手回しでの穿頭時に起こるピットフォールとしては以下のようなものがあります。

  • 最初のうちに狙ったところから滑ってしまいズレてしまう
  • 効率的に深さが進まず時間・労力がかかる
  • 最後の内板を削る際に突き抜けてしまう

滑ってズレてしまう

主な原因は穿頭部の頭蓋骨に対して垂直に当たっていないことです。

簡単に「垂直に当てる」といっても実際にはいくつかのポイントを押さえる必要があります

患者の頭部固定

助手の膂力!と言いたいところですが、色々工夫の余地はあります。

片側の場合は側臥位にしてなるべく地面に垂直にドリルが立つようにするのも一つの手です。

仰臥位で斜めにする場合でも頭部の固定は馬蹄形枕など、頭部の接地面をなるべく広くしておくとブレが少なくなります。

また、馬蹄型枕の場合は助手が反対側に回ってお腹あたりで受けることで体幹も援用した固定ができます。

ドリルの持ち方

手回しドリルは全身で使うもの、と心得ましょう

具体的には両足は肩幅よりやや広く拡げたスタンスをとり、胸骨からみぞおちあたりに非利き手をおいてドリルの柄を体の中心で受け止めます。

基本的に体の上体から垂直の軸にしか進めないので立ち位置を十分に考えましょう。

左右方向は真っ直ぐ、上下の傾きは上体の傾き具合で決まります。上体を傾けるほど体重をかけることができ、垂直に近くなるほど体重を利用することが難しくなります。

上記をイメージして手術台の高さ、頭部の傾斜を調節しましょう。

回しはじめでフィードバックを

上記の様なことを考えても最初のうちは自分が思っているのと実際の垂直がズレていることはしばしばあります。その場合固定やドリルの向きのどちらがズレているのかを考えて修正しましょう。

ドリルの方向がズレている場合はそもそも立ち位置がズレていることが多いので立ち位置から調節し直しましょう。

なかなか削り進めない

患者側の要因もありますが、はじめのうちはおっかなびっくり1番のキリで削り進めていくもののなかなか硬膜上まで到達できず、10分ぐらい回し続けてようやくバーホールが開く、ということもあるかもしれません。

原因の多くはドリルの接地面積が少ないため削れない、ということです。

ドリルのキリの形状と骨の形状を考えることが必要です。

1番のキリの形状は下図のようになっていて削れる部分は斜めのところです。

下図のように頭蓋骨は3層構造になっています。

硬い緻密骨でできている外板(external table)、やや疎になった海綿状骨でできている板間層(diploe)、再度外板同様の硬い内板(internal table)です。

外板は真っ直ぐ削ると均等に削れていいきますが、板間層に入ると周囲の骨は不均一になってきます。極端にいうと下図の様になっている場合は接地面積は少なく削れるスピードはかなり遅くなります。

板間層にいるはずなのになかなか進まない場合は上記を疑って削れる抵抗感を感じながら微妙にドリルの先端をずらすと進んでいきます。

柄から感じる骨の削れ感に対してアンテナを張っておくことが大事です

内板の突き抜け

ある程度手回しドリルに慣れた時に起きる事故がこれです。

慢性硬膜下血腫ならば血腫に突っ込むので大きな問題になることは少ないですが、それ以外の場合は硬膜を突き抜け脳実質の損傷や血管の損傷が起きてしまいます。

これが起こる原因は板間層までと同じ力で削っているからです。

板間層の少しガタガタして均一に削れていない感触から全周性に少し削れ始めたタイミングがドリル先端が内板に到達した合図です。慣れるまでは一旦ドリルを離して断面を観察すると良いと思います。

内板に到達後はやや押す力を緩めて削っていき、先端が大きくブレるようになったらドリル先端が内板を貫通した証拠です。これは削っている感触とドリルの軌道でもわかる事が多いです。

内板を貫通したら2番めのキリに先端を交換し、内板の孔を拡大していきます。

2番めのキリでの感触も慣れると抜けた瞬間がわかります。拡大された瞬間にドリル先端は少しだけ奥に進んで回す手への抵抗が一気に増えます。しかし削れ方によってはわかりにくいことも多いので、1番目のキリより押す力はかなり緩めにして、都度断面を確認しながら拡大しましょう。

手回しドリルに慣れると

手回しドリルに慣れることでその後の電動ドリルなどでの骨を削る際に上述の3層への意識が明瞭化されます。

電動ドリルのパーフォレーターでも突き抜けの事故の報告があります。先端のラチェット機構があり、通常内板を貫通すると空回りするはずですが、先端が斜めになっていたりすると起きる可能性があるようです。

電動でも手回しドリルで培った削れ方の感触を重視するとトラブルが起きにくいのではと思います。

  • 頭部固定のセッティングを見直す
  • 全身で骨に対して真っ直ぐに
  • 先端がどこにいるのか、空回りしていないかを意識
  • 削れる抵抗感に注意を向けよう

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