脳神経外科手術における初心者が実際に顕微鏡で手術を行う場合、脳内出血の血腫除去のケースが多いです。
一般に手術対象となる血腫除去術は被殻出血、皮質下出血、小脳出血、脳室内出血がほとんどです。
今回はその中で二通りアプローチ方法がある(内視鏡除く)被殻出血の血腫除去術に対して解説します。
手術適応について
脳卒中のガイドラインなどからは意識レベルがJCS二桁以上になっている血腫量31cc以上、ということになります。しかも定位的手術が勧められています。
しかし30cc弱でも周囲の浮腫が増悪して症状が悪化する症例もあるので要注意です。
また、被殻内へ血腫を形成している中大脳動脈瘤破裂でのクモ膜下出血の可能性もあるので血腫の位置が怪しいものは急性期にCTアンギオグラフィーなどでの精査をすべきです。
手術の目的は
被殻出血に対する開頭血腫除去術目的は
- 血腫量が多く切迫脳ヘルニアなどの場合は救命が目的になります
- そこまでの量でない場合まだ血腫除去が予後を改善させるかのエビデンスは定まっていない
- 血腫量を減らすと回復の速度は早い印象は有る
- 増大傾向のある血腫の場合出血源の同定・止血も目的となる
などが注意点です
アプローチ
開頭血腫除去術の場合transsylvian approachとtranscortical approchに大別されます。
それぞれのメリット・デメリット、適応基準などは成書に譲るとして、個人的には可能であればなるべくTranssylvian approachをおすすめしています。
これは以下の理由があるからです。
- Sylvian fissureの剥離のトレーニングになり、クリッピング術などにつながる
- 多くの被殻出血でinsularから入ることで血腫の中心からのアプローチになり、血腫内の操作が比較的定型的に行う事ができる
- 皮質を切開しないので皮質機能の損傷が少ないことが期待される、、、かもしれない
Transsylvian approach
開頭からinsular cortexまで
予想される頭蓋内圧に応じて開頭サイズは変わりますが、基本は前頭側頭開頭になります。
血腫内操作を見越すとvertex downをかけた方が楽になります。
硬膜切開後distal sylvian approachを行いM2を捉え、その下のinsularの末梢側を確認します。
通常の未破裂脳動脈瘤のクリッピング術の場合といくつか状況が違います。
- 頭蓋内圧は血腫で上昇しているのでproximal sylvian approachなどでcarotid cisternなどを開放してもそこまで脳がslackになって可動性が得られるわけではない。
- M2をたどることはperivascular cisternをとっかかりにして剥離をすすめるために必要だがM1やICAを確保する必要は全く無い
- Insularも全貌を見る必要はなく遠位側に1cm程度のcorticotomyを行う範囲が確保できれば良い
減圧手段が事前に無いので圧によってはsylvian fissureの剥離は難易度が上がることとなります。
その代わりに剥離範囲は狭くて良いので割り切りが必要です。
Insular cortexから血腫内操作
エコーで血腫の存在を確認し、distal insular cortexにcorticotomyをおいて垂直に深部へ至るとすぐに血腫腔に至ります。
多くの被殻出血の場合血腫は下から上に吹き上がっているため、proximal insularから入ると方向によっては血腫に当たらないことがあります。なのでdistal insular cortexから入る方が良いです。
血腫腔に至った後はまず液状~柔らかい血腫を吸引除去しスペースを拡げます。
やや足側の深部へ行くと出血原因血管であるLSAの末梢を確保し、止血することができます。
どのタイミングで止血操作に行くかはLSAからの出血の程度によります。
教科書的にはLSA以外の方向の血腫を取り尽くした後にLSA方向へアプローチすることが勧められていますが、時にはLSAから持続的に出血している場合は血腫を取れども取れども再度貯留してくるため捗々しく進まない場合があります、その場合は早めにLSAの止血をしましょう。
血腫を奥の方向へまで除去し脳実質が確認されたらそこから前方から上方、後方へぐるりと連続的に血腫を除去していきましょう。
注意点としては脳実質はひさしになって血腫が残らないように浅い位置もよく顕微鏡を倒して見ていくことと取り残さないように360度ぐるりと顕微鏡を回していくイメージです。
通常血腫は上方に伸びるため術者手前側に血腫が多く存在します。
顕微鏡を奥に倒して手前を除くようにしても良いですが、側方の血腫腔から回しながら術者自身が患者の足側に回って前方側方を覗くようにしたほうが無理がなくて良いです。(体勢はしんどいですが)
止血を確認し、エコーで大きな残存血腫が無いことを確認しましょう。
除去後の浮腫に応じて外減圧か骨形成して閉頭するか選択し、閉創しましょう。
血腫の底側から除去されるイメージなので術者手前側に血腫が多い。
そのためvertex downしておいた方が視野が得られやすい。
Transcortical approach
開頭からcorticotomyまで
Transcortical approachを選択する場合にcriticalとなるのは「どこの皮質を切開し、どの角度で血腫を除去するか」です。
- 皮質表面から血腫までの距離が短いか
- sylvian fissureなどから離れているかr
- 皮質切開からまっすぐ進むと血腫の長軸に沿っているか
- 開頭しやすい位置か
などを考慮して皮切・開頭位置を決定しましょう。
CTをボリュームデータで撮影してる場合は3Dワークステーションが役に立ちます。
3D画像上で反対側の骨を削って表示の閾値を変えると骨と血腫だけ表示されるようにできるので血腫に沿って骨を反対側からくり抜くと開頭範囲の参考になります。
脳圧が高い場合は皮質切開が範囲内であれば大きめの前頭側頭開頭で(外減圧の可能性も考慮して)、脳圧がそこまで高くなさそうな場合は皮質切開予定部位を中心とした少開頭でも良いと思います。
多くの場合血腫の頭側から入ることになるのであまりvertex downをかけないことになります。
開頭後はエコーで血腫が直下にあることを確認しgyrusからcortocotomyを行い血腫内に入ります。
血腫内操作
血腫内に入ってからは多くの操作は上記のtranssylvian approachに準じますがLSAの位置などは症例ごとに違うので注意が必要です。
頭部のポジションにもよりますが、血腫の長軸に沿って除去を行っていると徐々に周囲の脳実質が垂れ下がってきます、その場合はそれを支えるように脳ベラを挿入しましょう。
距離によっては完全にLSAの止血などができないことも念頭に置き、深追いしすぎないことも大事です。
血腫の分布によって開頭位置は変わる
進入角度を考える
まとめ
脳内血腫は内視鏡や定位的手術などが進歩して、ともすれば開頭血腫除去術のチャンスは減ってきています。
しかし、個人的には術者として被殻出血の血腫除去術を経ずしてどこでsylvian fissureの剥離を実践するのか、と思っています。
また顕微鏡の扱い、大きく角度を振って操作する、というような操作はその後の顕微鏡手術の根底にあるテクニックです。
正に「被殻出血を制すれば脳外科手術を制する」の意識で挑んでもらいたいと思います。
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