磁場式ナビゲーションとは
脳外科の手術では頭皮-頭蓋骨を超えて深部に操作対象があり、脳そのものをそこまでずらすことは難しいため病変の位置を術中に同定することは非常に大事です。
従来よりNasionや外耳孔などの解剖学的位置や頭蓋骨の縫合線などを用いての位置把握はされており、現在でもその手順を軽視してはいけない。(下記参考動画)
しかし特に病変が深部になってくると開頭が計画通りだったとしてもその先の方向は距離が伸びるほど少しの角度のズレでも大きな誤差を生むため困難が生じる。
それを解決するため術中ナビゲーションシステムが開発され、多くの脳外科手術では欠かせないものとなっている。(特に脳腫瘍や機能的脳外科手術においては)
現在日本で流通しているナビゲーションシステムの原理は光学式と磁場式の二通りあり、それぞれメリットとデメリットがあるがMedtronic社のStealthStationなどは両者をどちらも使えるシステムである。
今回磁場式ナビゲーションシステムのメリットと、最近気づいた非常に重要な注意点について述べます。
磁場式ナビゲーションシステムの概要
磁場式ナビゲーションシステムは頭部などにまずペイシェントトラッカーというものを取り付け、磁場を出すアンテナを近くにおいてトラッカーと実際の場所を指し示すポインターの位置を三次元的に把握します。
ポインターで患者の頭部の表面をなぞることで登録した画像との関連付けを行い(Registration)、術野で清潔のポインターを用いて位置確認を行うこととなります。
トラッカー
ポインターの例
磁場式のメリット
・頭部ピン固定が必須でなくなる
光学式の場合リファレンスとなる玉が付いているユニットが頭とずれないようにするためほぼ頭部をピン固定し、固定具にリファレンスを取り付ける形になります。
しかし磁場式の場合は小型のトラッカーを頭部に取り付ければよいのでピン固定が必須ではなくなります。
・体位の自由度が高い
多くのナビゲーションシステムでは上述のRegistrationの際には顔面の前面を主に使用します(形状が起伏に富むため)。そのため仰臥位や側臥位まではそのままRegistrationを行えますが、腹臥位などではRegistrationをそのまま行うことは困難です。
そのため光学式などでは仰臥位でRegistrationを行った後数カ所Reference pointを自分で設定し、体位変換後そのReference pointで再度位置関係を計算し直すことなどを行います。
しかし磁場式の場合トラッカーを頭部につけておけば仰臥位でも腹臥位でも頭部との位置関係は保たれているためそのまま使用する事ができます。
・顕微鏡操作中でも使用しやすい
光学式の場合ポインターの玉がナビゲーションシステム本体のカメラアンテナから映像として見えなければ追跡できないため、カメラアンテナとポインターの間に遮蔽物があると使用不可となります。
その代表的なものが顕微鏡です。
オプションをつければ顕微鏡とナビゲーションシステムをドッキングして顕微鏡そのものにポインターの玉をつけて、なんなら顕微鏡の視野の中にオーバーレイでナビゲーション上で作成したオブジェクトを映し出すことまで出来るものもありますが、かなりの初期投資が必要です。
磁場式であれば顕微鏡操作中でも磁場が通ってさえいれば追跡可能なため顕微鏡下に操作しながらポインターを使用することができます。(ただしナビゲーションの画面は助手などが確認する必要がある)
磁場式の注意点
・近くに金属類を置きにくい
アンテナ、トラッカー、ポインターの近くに金属類があると検知しにくくなったり位置がズレる可能性があります。
問題となるのは頭部ピン固定後の腹臥位手術では固定具のアームの位置によってはかなり検知されなくなる可能性があります。
脳ベラはかなりのポインターから少し離れていれば問題になることはなさそうです。
ちなみに金属でのズレはかなり小さいので実際に問題になるのは検知不良です。
ピン固定しない、カーボンフレームを使う、アンテナやトラッカーの位置をなるべく金属から距離を置く、などの対策を試しましょう。
・トラッカーのズレ
今回もっとも伝えたいことはこれです。
トラッカーを取り付ける位置は頭皮上、固定具のアームなどになります。
トラッカーとポインターの位置が比較的近い場合はそこまで問題になりませんが深部などになるとトラッカーが少し傾いただけで数ミリ以上は簡単にズレてしまいます。深部では全く使い物にならないレベルでズレます。
頭皮がズレる、頭皮はそのままだが取り付けたときから傾きが変わるだけでもアウトです。
(後日検証動画を作成予定)
頭皮上に取り付ける場合、頭部固定や消毒、皮切-開頭の間で頭皮ごとズレる、傾きが変わってしまうなどのリスクが出てきます。
このリスクを減らすためには
- トラッカーの固定・Registrationはなるべく消毒直前にする。
- トラッカーの取り付けは皮切-開頭部位から離しておく
- カーボンフレームなどを使う場合は頭部固定後カーボンフレームにトラッカーを取り付ける
などがあります。
まとめ
磁場式ナビゲーションシステムは柔軟性を持つ便利なシステムですが、トラッカーの扱いによって精度が左右されてしまいます。
これを踏まえて注意してナビゲーションシステムを活用して下さい。
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