無症候性頚動脈狭窄も多い
前回の記事で症候性の頚動脈狭窄に対しての治療戦略などを概説しました。
実臨床の場では一般脳外科(脳卒中内科)の外来に紹介などで来る頚動脈狭窄の多くは無症候性のものが多いので、そちらも概説しなければ片手落ちというものでしょう。
無症候性は今後の梗塞リスクを評価する
頚動脈エコーや頚動脈MRAなどで頚動脈狭窄を疑われて外来紹介となるケースが多いと思われます。
まず代表的なドック等で頚動脈エコーで引っかかった例を想定してどういったポイントを押さえていっているのか個人的な考えを解説したいと思います。
まず狭窄率・加速血流があるのか
頚動脈エコーの所見ではまず狭窄率が最低面積法で50%以上となっていたり収縮期の流速が加速しているかどうかでスクリーニングします。ここで頚動脈狭窄の狭窄率についてです。
頚動脈狭窄評価法
上記は日本超音波医学会用語・診断基準委員会作成の「超音波による頸動脈病変の標準的評価法 2017」からのfigureです。右側短軸面積狭窄率がいわゆる面積法 (Area法) と呼ばれるものとなります。そして左側の計測がいわゆるECST法にあたります。
そして上記のfigureであらわされるようにNASCET法は遠位側の内頚動脈の短軸径と最狭窄部の径の比から求められます。
一般的に面積法>ECST法>NASCET法の順で同じ病変でも狭窄率が高くなることが多いです。
エコーの一断面で計測しやすいのは面積法やECST法になります。プラークの範囲やエコーの入りやすさ、石灰化でのacoustic shadowなどで内頚動脈側は必ずしもきれいにエコー上確認できないこともあるので面積法50%あたりをスクリーニング目安とします。
一応上述のエコー標準的評価法でも面積法50%を超過した場合は流速などを評価するよう決められています。
面積法で50%に満たないものに対しては動脈硬化リスクに対するコントロール(禁煙、血圧、コレステロール、血糖値など)を行い半年から1年後にフォロー、という風にしています。
狭窄率が高くなってきたぞ
上述のようにスクリーニングでは面積法が有用ですが、脳卒中治療ガイドラインなどで挙げられるようなエビデンスとなるとNASCET法での評価が主になります。
まずガイドラインの扱いとしてはNASCETで50%未満が軽度狭窄、50-69%が中等度狭窄、70%-99%が高度狭窄ということのようです。
軽度狭窄以上のものに関してはできれば頭部MRIを撮影し、塞栓子によるFLAIRでの高信号領域がないかをチェックします。あまりにもはっきり脳梗塞のような高信号がある場合は半分症候性のような扱いにします。
軽度狭窄に対してはやはり動脈硬化リスクコントロールおよび3ヶ月から6ヶ月を目安としたフォローとしています。
中等度狭窄の扱いは難しいです。以前の脳卒中治療ガイドラインでは60%以上の無症候性狭窄に関しては内科的治療に加えてCEAの方が脳梗塞予防効果が高いとされていましたが2021年のガイドラインでは内科的治療の成績が良くなったため軽度・中等度ともにCEAやCASは勧められなくなっています。
というわけで動脈硬化リスクに応じてシロスタゾールなど抗血小板剤を導入を考慮します。
高度狭窄に関してはプラークの形状(潰瘍形成など)・プラーク性状(Lipid richないしはプラーク内血栓)・進行性のいずれかが高リスクであれば内科的加療に加えてCEAやCASをお勧めするようにしています。
プラークの性状はエコーでの低輝度、頚動脈部のMRIでのT1WIでのプラーク高信号はLipid richを示し、MRAでのプラーク部高信号はプラーク内血栓を示唆します。
いずれの場合も進行するケースがあるので内科的治療を選択したとしてもフォローを行い進行の有無を評価する必要があります。
意外と語られないが大事なこと
症候性の場合にも当てはまりますが、CEAやCASは脳梗塞の発症(再発)を予防することを目的とする予防治療です。
自分や同じやり方の自施設の合併症率と自然歴(内科的治療のコンプライアンスも関係する)に応じて適応は決まるはずです。
なので自分や自施設でのCEAやCASの過去の記録を100-200例程度ざっと確認しておよそどれくらいの合併症率かを把握しておくことが大事ですし、患者説明時の説得力も増します。
おまけ:抗血小板剤2剤併用について
症候性の時も問題となるのは内科的治療の際の抗血小板剤2剤併用をどう考えるかの点についてです。
3週間以内の2剤併用は出血リスクなどのマイナスはあまり問題になりにくいですがやはり2剤併用が長期になるほど出血性の副反応リスクが増します。6ヶ月を超えると有意差をもって出血リスクが高まります。
なので冠動脈疾患などの要因が無い限り原則として脳梗塞の急性期3週間以内およびCASの周術期にのみ2剤併用を行うことを勧めます。
- 狭窄とも言えないものは動脈硬化リスク管理
- なるべくNASCET法で評価
- 軽度から中等度では原則無症候性ではCEAやCASとならない
- プラークの形状・性状、進行の有無を評価しよう
- 自施設の過去の合併症率を把握しよう
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